これまでのコラムで、「メンタルは鍛えられない」「目的達成のエネルギー」といった話を書いてきました。今回も、その流れで私が考えていることを書いてみます。テーマは、トレードと「人間の心」です。
トレードって、よく考えると、すごく直接的に人間の感情に触れるものなんですよね。「もっと欲しい」という欲望と、「失いたくない」という恐怖。この2つにダイレクトに揺さぶられる。だからこそ私は、人間の心がどういう仕組みで動いているのかを理解しておくことが、トレードでも大切だと思っています。心の動きを知っていれば、その分だけ冷静さを保つ助けになる。今日はそれを、仏教の考え方を交えて語ってみます。
仏教は「執着を手放すと幸せになれる」と説く
仏教には、「執着を手放すと、人は幸せになれる」という考え方があります。
でも、これって最初に聞くと「いやいや、欲しいものを我慢したら不幸でしょ」と思いますよね。私も昔はそう思っていました。現代の感覚だと、欲が満たされること=幸せ、というのが普通の捉え方だと思います。
社長になりたい人は、社長になれたら幸せかもしれない。1億円欲しい人は、1億円を得られたら幸せかもしれない。……まあ、これはなかなかハードルが高いですが。もっと身近なところでも、「家族が十分に食べられて、たまに旅行にでも行けたら幸せ」と考える人もいます。欲の大きさは人それぞれですが、いずれにせよ「欲が満たされたら幸せ」という構造は同じです。
つまり幸せって、「欲」と「実際に得られたもの」のバランスで決まるんじゃないか。私はそう考えました。
「幸せ」を数式にしてみた
ここで、ちょっと遊んでみます。仏教っぽく、「欲」のことを「煩悩(ぼんのう)」と呼ぶことにしましょう。そして、幸せを無理やり数式にしてみると、こうなります。
幸せ(%) = 得たもの ÷ 煩悩
得たものを、煩悩で割る。これだけです。順番に考えてみましょう。
100万円欲しい人が、100万円を得たら、幸せは100%。式で言えば 100 ÷ 100 = 1、つまり100%ですね。欲がちょうど満たされた状態です。
では、100万円欲しい人が、1千万円を得たらどうでしょう。1000 ÷ 100 = 10、なんと幸せ1000%。欲を大きく上回って得られたので、幸せも跳ね上がります。
この式で見ると、煩悩より得たものが多くなればなるほど、幸せはどんどん増えていく。理屈の上では、無限に増やせそうに見えます。
ところが、人間の煩悩は無限に増える
ここからが本題です。
さっきの式、いいことばかりに見えますが、現実には大きな落とし穴があります。それは、人間は得れば得るほど、煩悩のほうも「もっともっと」と増えていくということです。
たとえば、1千万円を得たとき。素直に喜べばいいのに、その瞬間にはもう「次は1億円欲しい」と思っていたりする。すると式はこうなります。1000 ÷ 10000 = 0.1。なんと幸せは10%まで下がってしまう。……計算、合ってますかね(笑)。
1千万円も持っているのに、幸せは10%。これ、笑い話のようでいて、人間の心の本質を突いていると思うんです。得たものが増えても、それ以上に欲が膨らめば、かえって幸せは減ってしまう。
仏教が「人間は満足できない、だから苦しい」と説くのは、まさにこういうことなんじゃないか。煩悩が無限に増えていく性質を持っている以上、満たすこと(分子を増やすこと)でいくら追いかけても、幸せには永遠に追いつかない。私はこの考え方に、すごく納得しました。
だったら、分母を減らせばいい
では、どうすればいいのか。数式をもう一度見てください。
幸せ = 得たもの ÷ 煩悩
幸せを増やす方法は、2つあります。分子(得たもの)を増やすか、分母(煩悩)を減らすかです。
分子を増やすのは、さっき見たとおり、煩悩も一緒に増えるので追いつきません。でも、分母を減らすほうはどうでしょう。
得たものを仮に「1」のままにしても、煩悩を 1 → 0.1 → 0.01 と、どんどん小さくしていったら……割り算なので、答えはどんどん大きくなります。煩悩を限りなくゼロに近づければ、幸せは理論上、無限大(∞)になる。
これが、仏教の言う「執着を手放すと幸せになれる」の正体なんじゃないか、と私は思っています。欲を満たすんじゃなくて、欲そのものを手放していく。分子を追いかけるのをやめて、分母を小さくする。そっちのほうが、よっぽど確実に幸せに近づける、というわけです。
この話、トレードにそのまま効いてくる
さて、ここまで壮大な話をしてきましたが、これはトレードの実務に、ものすごく直接的に関わってきます。
トレードで利益が出ると、人間はどうなるか。そう、煩悩が増えるんです。「もっと稼げるはずだ」「次はもっと大きく」と。そして、気が大きくなって、いつもより大きなボリュームでトレードしてしまう。得ても得ても煩悩が増えるという、さっきの心の性質が、そのまま出るわけです。
その結果どうなるか。たいてい、大きく張ったところで派手にやられます。私自身、何度もやりました。勝って気が大きくなったときが、一番危ない。
だから私は、この「人間は満足できない」という心の性質を理解したうえで、自分にこういうルールを課しています。あくまで私のやり方ですが、紹介しますね。
ひとつ。資金に対するリスク%は、絶対に守る。
調子がいいときほど煩悩が増えてロットを上げたくなりますが、そこは機械的に「資金の何%まで」を厳守します。煩悩に手綱を握らせない、ということです。
ふたつ。得られた利益は、定期的に出金する。
毎月など、タイミングを決めて、増えた分を口座から出してしまう。口座に置いておくと「これも軍資金だ」と煩悩が膨らんで、また大きく張りたくなる。だから、物理的に手元から離してしまうんです。これは、自分の煩悩から利益を守るための、いわば儀式みたいなものです。
心を知ることは、退場しないための武器になる
まとめます。
トレードは、欲望と恐怖という人間の感情に、まっすぐ触れる行為です。だからこそ、自分の心がどう動くのかを知っておくことが、冷静さを保つ助けになる。「得れば得るほど欲も増える」という性質を知っていれば、勝ったときに気が大きくなる自分を、一歩引いて見られるようになります。
欲を完全に消すなんて、私にもできません。煩悩まみれの人間です。でも、「人間ってそういうものだ」と知っているだけで、ブレーキの効き方がずいぶん変わる。リスク%を守る、定期的に出金する。そういう地味なルールを守り続けることが、結局は相場から退場せずに生き残る武器になる。私はそう考えています。
……今日もずいぶん理屈っぽい話になりました。でも、幸せの数式、ちょっと面白くなかったですか?よかったら、自分の煩悩の大きさ、ときどき測ってみてください。
※本記事は情報提供および筆者の個人的な考えを述べたものであり、特定の宗教・思想や投資手法を推奨するものではありません。また、特定の勝率や利益を保証するものではありません。FX取引には元本を失うリスクがあります。取引は必ずご自身の判断と責任において行ってください。

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